「教則本はやるべき?」
教則本の例として身近なものを挙げるとしたら「ツェルニー○○番練習曲」や「ハノンピアノ教則本」などが有名ですね。今回は「ハノンはやったほうがよいのでしょうか?」
という質問に関して。教則本とは技能、技術を習得する為の指南書というべきものです。いろんな考えや意見があるとは思いますが、では果たして「ハノンを1番から
最後までやれば技術は向上するのか?」という単純で素朴な疑問。
まず初めてピアノに触れる人がもし、ハノンを最後まで弾けるようになればそれは技術面においては確実に進歩したといえるでしょう。では既にピアノ経験者が新たに
ハノンをやった場合どんな効果があるでしょうか?例えば第1番。「ドミファソラソファミ、レファソラシラソファ・・・」でおなじみですが、全てハ長調で白鍵のみです。
音符が読めて初めてピアノを弾く人でないとしたら、まずそれほど難しくなく、しかもかなり早くも弾けたりします。そういったある種の鍵盤に対する「征服欲」とでも
いいましょうか、弾き切れば一種の満足感は得られるかもしれまん。
ピアノに求められる技術を大分すると「音階の技術」「分散和音、いわゆるアルペジオの技術」「オクターブを含む和音、重音の技術」の三つになります。あらゆる
ピアノ作品は基本的にはこの三つの技術によって書かれていると言っても過言ではありません。(ここでいう技術とはあくまで指の機能的な面に関してのみということで)特に、「音階」
「アルペジオ」を全ての調において習得することはとても大事で、ピアノを専門的に学ぼうとする人にとっては絶対に習得すべき基礎であるといっても過言ではありません。
子供の練習を見ていてよく思うことなのですが、例えば黒鍵から始まる♭系の音階などを弾くのに、右手の「1」の指、つまり親指から弾き始めてしまい、
とんでもないアクロバットな指使いになってしまったり、毎回違う指使いで弾いたりしていることがあります。ピアノを専門的に学ぼうとする人に限らず、
調性ごとの適切な指使い、フォルム「型」を学ぶことによって音階やアルペジオでつっかえたり、弾き直したりといった癖をなくす効果が得られます。
また無数の音符をこのような「フォルム」として捉えることができるようになると、初見、譜読み等の練習過程においても飛躍的に差が出てきます。
そういった意味でハノンの特に後半の24調の「スケール」「アルペジオ」を練習することは「5度圏」や「調性」の理解を含めよい勉強になると思います。
「24調」といってもと24種類あるわけじゃなく、大きく白鍵から始まる場合、黒鍵から始まる場合、そして長調の場合と短調の場合といったパターンがあり、
これら4つの要素の組み合わせで決まる適切な指使いをいったん体が覚えてしまえば、1の指や5の指が黒鍵に来てしまうようなことはなくなり、かなりの曲が楽に弾けるように
なるでしょう。
また前半のハ長調のユニゾンですが、例えばチャイコフスキーの1番のコンチェルト3楽章や、ショパンの2番のソナタ終楽章など実際出てくるユニゾンのパッセージは
白鍵、黒鍵入り組んでいて、テンポも速く難しいのです。ハノン前半に関しては24調を学習した後であれば、例えば一音上げたニ長調、また下げた変ロ長調で
(黒鍵がどちらも異なる二箇所という理由です、別の調でも練習になります)練習することをお薦めします。結構難しいとは思いますが、ハ長調のときと同じような
テンポ、音の粒で弾ければ相当な技術の習得に繋がると思います。
けれど、あまり指のことばかりとらわれて、肝心な演奏が無味乾燥なものになってしまっては本末転倒になってしまいますよね。演奏している本人にはそのつもりがなくても
残念ながらそう聞えてしまう演奏もあるようなので気をつけたいですね。聴衆はあくまで「良い音楽」を聴きに来てるのであって、決して「指」を聴きに来てるわけでは
ないのですから。